高校生の頃読んだ小説を読み返してみた。内容はすっかり忘れてしまっていたのだが、「良かった」という読後感だけは覚えていた。改めて読んでみるとかなり重い内容であることに驚く。「恋愛」「虚無」「自殺」。左翼運動に命をかけていた若者らの青春、そして挫折。信じているものがもろくも崩れ去ったあとに残るものは、大きな虚無感。
主人公は言う。
「・・幸福には幾種類かあるんで、人間はそこから自分の身に合った幸福を選ばなければいけない。間違った幸福を掴むと、それは手の中で忽ち不幸に変わってしまう。いや、もっと正確に言うと、不幸が幾種類かあるんだね、きっと。そして人間はそこから自分の身に合った不幸を選ばなければいけないのだよ。本当に身に合った不幸を選べば、それはあまりよく身によりそい、なれ親しんでくるので、しまいには、幸福と見分けがつかなくなるんだよ」
こんなこと、当時はまったく理解していなかったはずである。しかし、人生を重ねた今、自らの経験と照らしあわせてみると、なるほどそうかも知れないと共感できる内容であった。